幼い頃から、たびたび夢に登場する店があります。
夢というのは面白いもので、現実の地図がいろいろ景色を変えながら、
結局同じ場処が何度も登場するのです。
「その店」はいつもほぼ同じ場処にあって、現実の地図と照合すると特に何の思い出
も関係もない場処なのですが、いつもその辺りに出現します。
「その店」は時には古い時計屋で、わたしは夢の中で自分の時間を取り戻すための時計を買いに行きます。
口数の少ない白い髭をたくわえたおじいさんは、時計を売るにはどこかの写真と誰かの手紙と鍵を持って来いといいます。
夢の中でわたしは必死でそれらを探して回ります。
「その店」はある時は魔女が棲む魔法を売る店で、
売っているものはじっくり考えて買わないと恐ろしいことを起こしてしまう力を持っています。
ある日、そこでわたしは青い液体を買いました。
その帰り道、うっかりその液体の入ったびんを落として割ってしまい、
その日から世界はずっと明け方のあの色の空になってしまいました。
「その店」はある時は鉱物標本が並ぶ店でした。
その標本はただの標本ではなく、そこで買った鉱物を乳鉢ですりつぶし、岩絵の具で言えば「白(びゃく)」となるまで細かくします。
これを呑むと、思い出したくない辛い記憶を書き換えることができるのです。
書き換えたい記憶の種類で使う鉱物を選びます。
……そんな店のキーワードは「記憶」。
今後は年に一度のカフェイベントとして。また古物のカフェイベント「時の標本展」にも少しだけ登場させたり、ステルクララの物語などにも登場させていく予定です。
|