馬酔木
確定申告と本の制作が重なったため、『小さな博物学日記』が少しだぶついてしまっている。
確定申告がなんとか終わったので、写真だけは撮影しておいたものに、テキストを付け始めた。
その中の1つ。3月10日のもの。
池水に影さへ見えて咲きにほう あしびの花を袖に扱入れな
いけみづに かげさへみえて さきにほふ あしびのはなを そでに こきれな
大伴家持の山斎属目の歌(巻二十・四五一二)である。
池の水に影を映して、美しく咲いている馬酔木の花を、手折って袖に入れましょう。
という意味。
大学の時、課題で「万葉集にうたわれている植物」というものがあった。
まず、どんな植物が詠まれているのかを調べたところ、予想に反して桜は少
なく、現代ではあまり売られていないような花も多くあり、わたしはその中で馬酔木を選んだ。
課題の植物を決めるにあたり、書き出した草花の名前をぼんやり眺めていたところ、突然、堀辰雄の『浄瑠璃寺の春』を思い出したためで特に、なにかアイデアがひらめいたわけでもなんでもない。
植物を決めて、それがうたわれている歌を書き出している中で、大伴家持のこの歌がひっかかった。
「山斎を属目して作りし歌」と題されたもので、略して山斎属目の歌といわれている。
「山斎を属目」とは庭園を眺めて作った歌というもの。
花を(多分)手折って袖に入れた・・・・・と、それだけで歌になるのか。馬酔木にはたとえば、恋が成就する故事成語みたいなものがあるのだろうかと調べるわけである。
文学部とは暢気なところだなあと今になって思う。
本当は馬酔木には恋が成就するといういわれがあるというネタをみつけられたら最高で、素敵な訳を書けたのだが、残念ながら記憶では馬酔木に防虫効果があるから、手折った花を袖に入れ、そのまま懐紙などに包んで、抽斗に入れたのだろう、なんてつまらないレポートとなったような記憶がある。
馬酔木とは、馬が葉を食べると毒に当たり、酔ったようにふらつくのでこの名前が付けらたのだ。
毒の成分はグラヤノトキシンやアンドロメドトキシンなど数種類を含み、自然の殺虫剤としても使われているとか。
文学部の課題に、半分以上が毒について調べて書いたという、ちょっと残念な想い出である。