龍涎香(りゅうぜんこう)とは英語で「Ambergris」。語源は「灰色の琥珀」を意味する古フランス語のambre gris(アンブル・グリ)。
マッコウクジラの腸内で生成される希少な固形物で、香水の原料として、または神経や心臓に効果のある漢方薬としても使用されていました。
1.龍涎香の成り立ち
マッコウクジラは主にイカを食べます。イカの嘴(トンビと呼ばれる角質部分)は消化できず、腸内に残ることがあります。これが、クジラの体内でロウ状の物質と触れ合い、時間をかけて熟成&排泄されます。あるいは、クジラの死後に海へ流れ出します。
海水よりも比重が軽いので、海面に浮き、紫外線や塩水にさらされることでさらに独特の香りを持つ物質へ変化(熟成)します。
昔は、海岸に打ち上げられたものが拾われ、これが「龍涎香」として珍重されていました。商業捕鯨が盛んだった時期には捕獲されたマッコウクジラから採取できていました。
1986年以降、商業捕鯨が禁止されたため、現在は昔のように偶然によってしか入手できなくなっています。
2.龍涎香の特徴
色:グレー~黒褐色、時に銀白色
質感:ワックス状で軽く、手で触れるとオイルっぽい感じ
香り:最初は獣臭に近いが、熟成すると甘いムスクのような香り
燃焼性:火をつけると黒い煙を出しながら燃える
3.龍涎香の用途
香水の原料
昔から香りを長持ちさせる目的で、高級香水の保持剤(フィキサティブ)として使われていました。
「シャネル No.5」などの名香にも使用されていたことは有名です。現在では人工代替品が主流です。
漢方・薬用
中東や中国では、古くから強壮剤や医薬品として利用されてきました。
解毒作用・消化促進などの効能、神経や心臓に効果があるとされています。
贅沢な香料としての利用
昔は貴族や王族が龍涎香を食べたり、お茶に混ぜたりして楽しんだそうで、ヨーロッパでは「魔法の香料」として注目されていたこともあります。
4.龍涎香の価値
現在でも高額で取引されています。100gあたり数十万円~100万円以上の値がつくこともあります。
取引例
2021年、イエメンで127kgの龍涎香が発見され、約1.8億円で売却されました。
5.法律と倫理問題
龍涎香の構成成分の大部分はステロイドの一種であるコプロスタノールとトリテルペンの一種であるアンブレインです。このうちアンブレインの含量が高いものほど品質が高いとされます。
アンブレインが龍涎香が海上を浮遊する間に日光と酸素によって酸化分解をうけ、各種の香りを持つ化合物を生成すると考えられています。
これらの香りの重要な化合物としては、Ambrox、Ambroxanなどの商標で知られているものや、Ambrinolの商標で知られているものなどがあります。これらの化合物は合成香料として製造され、龍涎香の代替品として使用されています。
本物が使われているのか化合物だけの商品なのか、購入時には見極める必要がありますが、結構うやむやな説明がなされているものも多いです。
また、クジラの捕獲は国際的に規制されているため、龍涎香の入手は偶然の発見に制限されます。さらに、流通は一部で規制されているため、取引には注意が必要です。
6.龍涎香の見つけ方
主にインド洋やアフリカの海岸に漂着されたものが多く流通していますが、日本でも沖縄などでみつかっています。
軽くてワックス状の質感、独特の香りがあるものを探しましょう。
もし、拾った場合の鑑定方法は、熱した針金をさすというもの。タールのように溶けて針金が刺さることで本物と判ります。香も出るので確実です。
7.龍涎香にまつわる伝説
わたしが一番最初に「龍涎香」を知ったのは、小学生の夏休みに読書感想文の課題図書になっていた『白鯨』(ハーマン・メルヴィル)。第92章は、章題もAmbergrisで、鯨を解体する際に龍涎香を取るシーンが描写されています。
鯨なのになんで龍なの?という疑問が残りますが、もともと、龍の涎(よだれ)が海に落ちて固まったものと信じられていたのです。
「アラビアン・ナイト」にも登場します。ヨーロッパでは魔法の力を持つと考えられていました。
「香りの調合」ワークショップでは香水、オイルで香りを確認していただき、線香に仕立てられたもの(人工物)を調合することしかできませんが、龍涎香の情報をいろいろお話したいと思います。
また、もし、みなさんが海辺を散歩する際に、拾えたら素敵なので、そんなお話もします。
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