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ここ数年、毎年、春にバフンウニ、夏にムラサキウニの受精発生実験をカフェのワークショップとして行い、プルテウスを飼育し、稚ウニに変態させるということをしています。

今年はこれにヒトデも加わります。

 

写真は、きらら舎生物部にアップされるので、興味のある方はご参加ください。

参加無料、部費などもありません(受精卵やプルテウス、その餌などはご購入していただきます)。

 

 

>>きらら舎生物部(FaceBookグループ)

 


 

今年から、新たにヒトデで受精発生実験を行うことにしました。

ヒトデにはイトマキヒトデを使います。日本近海の海でよくみられるヒトデです。

実験のために春から飼育し、生物部サブスク()で毎月増やしてきました。

 

【イトマキヒトデ】

棘皮動物門 
ヒトデ綱
アカヒトデ目
イトマキヒトデ科
イトマキヒトデ属
イトマキヒトデ

学名:Patiria pectinifera
(Müller and Troschel,1842)

 

イトマキヒトデ/きらら舎

イトマキヒトデ/きらら舎

 

月に1回の定期便を第一土曜日の理科室カフェ・生物部に合わせて、そのほか何かが採れた時に臨時便で採集者の方から生体を仕入れています。

生物部メンバーは生体リクエストができます。

 

 

【ヒトデを飼う】

実験用なのである程度のサイズが必要です。しかし大きな水槽を置くスペースも水交換なども大変なので、発泡スチロールの箱にエアレーションだけして飼育しています。

エアストーンを抱え込んでパンパンになったり、ひっくり返って胃を出している姿はちょっとグロテスクですが、管足を動かして移動する様子を観察するのは楽しいです。

 

イトマキヒトデ/きらら舎

 

飼育箱には小さなヒトデもいて、こいつらは可愛いです。

 

ヒトデ/きらら舎

 

 

【ウニの実験と違うところ】

受精では卵と精子の核融合が起こります。そのままだと、染色体の数は2倍になってしまうので、受精の前に半分にする必要があります。

ウニではこれを人間がする必要はなくて楽なのですが、ヒトデの場合は受精させる前に卵の染色体を半分に減らす、つまり減数分裂させる必要があります。

別の言い方をすると「卵成熟させる」となります。

多くの動物種では、卵巣の中にたくわえられている卵は、減数分裂の途中で一旦停止していて、そのままでは正常に受精することができません。このような卵を「未成熟卵」 と呼びます。

この未成熟卵が減数分裂を再開し、発生スタートOK となる過程が卵成熟 (oocyte maturation) です。

自然界では、生殖時期になるとまず、放射神経からペプチドホルモン (GSS) が放出され、卵の周りを包んでいる濾胞細胞に作用します。

すると濾胞細胞は第2のホルモンである1-メチルアデニン (1-MeAde)を合成して放出します。

卵表面の受容体に1-MeAdeが結合すると、卵内に卵成熟促進因子(MPF) が作られ、これが様々な現象を引き起こし、減数分裂が再開します。

自然界では、減数第一分裂中期のころに放卵が起こり、海の中で受精します。

これを実験室で行う場合、昔は、放射神経をすりつぶして、そこから出るGSSで減数分裂をさせていました。

最近では第2のホルモンが薬品として販売されています(1-メチルアデニン)。

濃度は 10 -6 Mで使います。10 -3 Mに作ったものを海水で1000倍に薄めました。

 

 

【実験手順】

自分で撮影できなかった写真は参加者の方にいただきました。ありがとう!

    1. ヒトデの脚の裏側の外皮をV字にはさみで切って精巣、卵巣を取り出し、海水に浸す。
    2. 精巣は1つでよいが卵巣は1匹分、すべて取り出した。
    3. 卵巣は海水の入ったシャーレに入れて一人に一つ渡し、卵巣からこぼれ落ちた卵と精子を観察する。
    4. 卵巣の入ったシャーレにメチルアデニンを加え、良く攪拌し、放卵を待つ(約30分)。
    5. 卵巣から出てきた卵を観察し、卵核胞がなくなっている事をチェックする。
    6. 卵を別の容器に取り、精子液を少し入れて受精させる。
    7. 受精膜が上がるのを観察する。
    8. 極体という小さなものができて、染色体の半分はそこに捨てられる。
    9. 先に第一極体、少ししてから第二極体が放出される。
    10. 以降、卵割・発生を観察していく。

4cmシャーレはフタをしたままモバイル顕微鏡で観察することで、乾燥を防ぎ、長時間観察することができました。

別に減数分裂&受精させた受精卵を60mlのフラスコに入れて渡しました。ここに観察していたシャーレの内容物も入れて、お持ち帰りいただきました。

かなり密なので、200~300mlの容器3つくらいに分けて培養してください。

20℃の温度条件で、64細胞期は4時間、胞胚は16時間、中期原腸胚は24時間、後期原腸胚は36時間、ピピンナリア幼生は60時間が目安だそうです。

実際には50時間程度でピピンナリアになりました。

 

ヒトデの発生実験/きらら舎

卵巣を取り出す。

ヒトデの発生実験/きらら舎

配られた卵巣。

ヒトデの発生実験/きらら舎

モバイル顕微鏡(アナトミー)で見てみた。

ヒトデの発生実験/きらら舎

ヒトデの発生実験/きらら舎

上に飛び出しているのが極体。ここに染色体の半分を捨てる。

ヒトデの発生実験/きらら舎

受精後、受精膜が上がってきた。極体はゴミ出しのように受精膜の外に出された。

ヒトデの発生実験/きらら舎

卵がくびれはじめた。

ヒトデの発生実験/きらら舎

二細胞期。

ヒトデの発生実験/きらら舎

四細胞期。右が上から見た図。左上が横から見た図。割球の位置がよくわかる。

ヒトデの発生実験/きらら舎

四細胞期のものと八細胞期のもの。

ヒトデの発生実験/きらら舎

八細胞期のものと十六細胞期のもの。

ヒトデの発生実験/きらら舎

十六細胞期のものと三十二細胞期のもの。

ヒトデの発生実験/きらら舎

桑実胚。

ヒトデの発生実験/きらら舎

細胞が外側に集まり始める。胞胚。

ヒトデの発生実験/きらら舎

胞胚にはまだ受精膜があるのがわかる。

 

孵化しました。

 

今回、生まれて初めてのヒトデ発生実験でした。

前日から1匹の一番大きなヒトデが爆発していて、実験当日の早朝には水がかなり濁っていた(さらには爆発した胃の破片が飛び散っていた)ので、水を交換しました。

そのため、実験で使える海水が少量となってしまいました。

ヒトデは爆発しても数日は管足を動かして生きています。それで、5時から実験をするところを、2時過ぎに爆発クンから精巣を取り出しました。

その後、もう1匹から卵巣を取り出しました。

卵成熟誘起ホルモン ( = 1- メチルアデニン)は準備していたのですが、放射神経も念のために取っておこうと、ここで思い立ち、ヒトデをバキバキと手で割いてみたのですが、すでに卵巣を取り出すためにハサミをいれていたせいもあって、神経採取はできませんでした。

手袋をしていなかったため、爆発クンのせいで手がものすごく臭くなったので、ここから数時間は、石けんで何度も手洗いをし、飲み物を出すことができませんでした。

だいたい16~18時間で胞胚となりました。

 

 

ヒトデの発生実験/きらら舎

ピピンナリア幼生一歩手前

Categories: 生物・植物室

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かよこ さとう ()

Website: https://kirara-sha.com/

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