【 カギノテクラゲ 】
刺胞動物門
ヒドロ虫綱
淡水クラゲ目
ハナガサクラゲ科
カギノテクラゲ属
カギノテクラゲ
学名:Gonionemus vertens A. Agassiz, 1862
触手の先が鉤状になっているのでカギノテクラゲ。
触手の先に付着細胞があり、それで海藻や岩、水槽の壁にくっついています。
水槽からスポイトで吸っても、鉤が引っかかってなかなか吸い取れないこともよくあります。
傘は浅いお椀状で、十字の放射管が特徴です。成熟個体は放射管の上に4本の襞状の生殖腺があり、雌は橙・赤・紫、雄は黄褐色です。メスが濃く、オスが薄めという印象です。
触手の付け根の緑色の部分には、オワンクラゲと同じようにGFP(緑色蛍光タンパク質)を持っています。
神経毒が強烈で、刺されると全身症状により喘息のような咳、鼻水、腰痛・筋肉痛、吐き気、頭痛、痙攣、寒気、チアノーゼを引き起こすことがあり、救急車出動もよくあるそうです。
水槽で飼育している分には、素手で触ることもないし、飼育水の飛沫が飛ばないように注意をする程度でよいのですが、採集したり、採集したものを袋に詰めたり、袋から出したりする時が危険です。
一番、気を付けなくてはいけないのが。水槽の中のものを取り出す時。もちろん、水槽に手をつっこんではいけません。
観察
十字が放射管。真ん中が胃腔の端で、向こうに見える白いものが口柄。
生殖巣が放射管にくっついて発達していることがわかります。
メスっぽい・・・
触手の付け根には眼点があり、このあたりが緑色に光ります。オワンクラゲで有名になったGFPをカギノテクラゲも持っています。
触手にある刺胞が怖いですw
口はフリルみたい。
白っぽく見えるところが卵なのかも。
GFP・・・・・確認できました!
こんなふうにして観察しています。
受精実験
エダアシクラゲの受精実験に続いて、カギノテクラゲでも受精実験をしたいと思います。
受精実験で大切なことは、卵の成熟です。成熟というのは減数分裂が完了しているということ。生物は両親から引き継いだDNAを父からの分と母からの分で1対持っています。それらをそのまま接合してしまうとDNAが二倍になってしまいます。
精子はもともとその生物のDNAの半分だけを保持しているのですが、卵は他の細胞と同様に2対のDNAを持っています。これが減数分裂によって余分な核を放出し(放出されたものを極体といいます)精子と同じ数になった時点で卵成熟完了です。
卵成熟が完了されていない卵は受精ができません。
ヒトデでの実験では卵巣から取り出した卵を、神経をすりつぶして卵成熟誘起ホルモンを添加したり、1-メチルアデニン(1-MeAde)を添加して卵成熟を促す必要がありますが、ウニやクラゲでは放精・放卵をした時点で卵成熟が完了しています。
ウニでは放卵させるために、塩化カリウムやアセチルコリンを注射しますが、クラゲは光刺激で放精・放卵するので楽です。
エダアシクラゲは生息地によって「暗タイプ」と「明タイプ」の両方が存在します。暗タイプとは明るい環境の後に暗くなると放精・放卵をするもの、明タイプはその逆です。
そのため、飼育しているエダアシクラゲ(採集したクラゲ)がどちらのタイプであるかを先に調べる必要があります。
カギノテクラゲは「暗タイプ」とわかっているので楽です。ちなみにカミクラゲも「暗タイプ」。
明タイプには、タマクラゲやサルシアクラゲがいます。
タマクラゲは飼育していますが、さすがに小さいので素人環境下での受精実験には適していません(そもそも、水槽の中で遊離しても、見つけるのが大変です)。
カミクラゲは受精卵を作れても、まだ誰もポリプにできた人がいません。きっとタマクラゲのように他の共生生物が必須なのだと思うのですが、タマクラゲのポリプが発見されていないので、共生生物も特定はできていません(これ、発見したいですねえ)。
あれだけ各地で大量発生するカミクラゲ。ポリプがみつかっていないというのは謎です。
・・・で、カギノテクラゲですが、これはポリプも大きいのです。ぜひ、ポリプを作ってみたいと思います。
まず、オスとメスを見極めます。
クリームケースに取り、モバイル顕微鏡で生殖腺を観察します。予め色で判別がつくため、モバイル顕微鏡ではそれの再確認と同時に成熟具合を調べます。
卵は卵巣からにゅう~っと出てきます。精子はもや~ふわ~と出てきます。
2022年5月8日(日)
8:00
生殖巣が発達しているクラゲをクリームケースに取り、暗箱にセットしました。
今回は、放精・放卵の撮影ではなく、まずは受精をさせてみようと思います。
途中で暗箱は開けずに1時間待ちました。
個体が弱らないように、そのまま観察続行はせずに水槽に戻し、卵・精子の観察&受精をしてみます。
9:10
A メスだと思う・・・メスでした! 放卵確認
B メスだと思う・・・メスでした! 放卵確認
C オスだと思う・・・オスでした! 放精確認
放精・放卵の確認なので、モバイル顕微鏡のピント合わせはしていませんが、卵と精子を確認できました(モバイル顕微鏡/エッグ)。
メスAとメスBではAのほうが卵の個数が多く、これは暗箱に入れる時間の差(5分程度)か、個体差かはわかりません。
オスCは小さめで生殖巣もあまり発達しているようには見えなかったので、エダアシクラゲ実験時よりも精子の数は少ないのは、そのせいかと考えられます。
エダアシクラゲでは小さくても成熟している個体が多かったけれど、カギノテクラゲではサイズはそこそこあっても、まだ生殖巣が発達していないものが多くいます。
受精にはモバイル顕微鏡/アナトミーを使います。モバイル顕微鏡ユーグレナだとより詳細な映像が撮れそうですが、卵割の観察なので、このままクリームケースで行いたいため、アナトミーを採用しています。
未受精卵。下に小さな光る粒が2つついていますが、これは極体。
卵が減数分裂をして卵成熟に至る際に放出された核です。
9:20 媒性
多くのクラゲにはウニのような卵膜はないので、受精膜が上がるのは見ることができないのですが、これって受精膜なのかな?
全部の受精卵に確認できました。
10:10
下のほうの受精卵には凹みができてきました。
10:15
ちょっとわかりづらいのですが、下の受精卵は2細胞期になりました。上のほうも凹みができてきています。
このあと、卵の透明度が低いせいで卵割がはっきりと確認できませんでした。
なんだかごつごつしているので、きっと4細胞期、8細胞期なのでしょう。
15:50
胞胚という感じになっています。
2022年5月9日
5:10
プラヌラになっていました。
クリームケースでの実験はそのまま飼育しながら観察ができるのですが、水質がきれいに保たれないので長時間の実験を継続することができないでいました。
その原因は、親クラゲを採取した際、その水で放精・放卵をさせていたせいかと思われます。そこで今回の分は水槽に戻し、次の実験では、親クラゲは飼育水ではなくきれいな海水で放精・放卵させてみます。
受精実験 その2
2022年5月9日
昨日と同様、オスだと思うもの、メスだと思うものをそれぞれ1匹づつクリームケースに入れて、暗箱にセットしました。
卵巣はうねうねとしていますが、エダアシクラゲ同様、卵は表面ににゅぅっと現れて、遊離していきます。
卵巣の中の卵も確認できました。
未受精卵ですが、やはり膜が見えます。
2細胞期になったものの周りにもやはり膜が見えるので、カギノテクラゲの卵には卵膜があると言ってよいと思います。
最初に2細胞期になったものは媒性から30分程度。発生のスピードは個体差が大きいようです。
モバイル顕微鏡をユーグレナに換えてみました。
2細胞期くらいなのですが、やっぱりよくわかりません。
でも、ちゃんとプラヌラにはなりました。
ところで、今回実験している途中でカギノテクラゲ水槽に海藻があまりなかったので、一緒に届いたマクサを1束入れてみました。
そこにワレカラがついていて・・・・・
ワレカラ VS カギノテクラゲ、みたいな場面があったのです。
どっちがどっちを喰ってるのかわからない三つ巴。
その後、大きなメスのカギノテを捕まえたら、胃腔がやけに肥大しているなあという印象だったのですが、モバイル顕微鏡に、ワレカラが写ってました!
カギノテクラゲ、おそるべしです!
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