数日前のノート(ブログ)で、ムシロガイとタマクラゲの水槽に謎のヒドロ虫綱ポリプが発生したことを書きました。 >>ムシロガイ水槽のポリプ
さきっちょが丸い頭状触手です。
触手が6本だとエダアシクラゲ。4本だとハイクラゲだと思っていたのですが、エダアシクラゲのポリプも触手が4本らしく、うちのだけたまたま6本だったようです。
そんな折、小さなエダアシクラゲのメデューサが水槽内にいました。
やっぱり、エダアシクラゲのポリプなのかなあと思っていたところ、水槽内のアオサに粒々が。
ムシロガイは砂に潜るので、水槽には細かい砂を入れてあります。
食べ残しをスポイトで吸い取る際に、この砂が水槽内の海藻に落下します。アオサについていた粒はそれだと思っていて、食べ残しを吸い取る際に、この粒に水を吹きかけて落とそうと思いました。
しかし、落ちない。
落ちないどころかびくともしない。
近くには小さなカーリー(やっかいもの扱いされるイソギンチャク)もいます。
カーリーの子供???
それもいやなので、とりあえず粒々のついたアオサを取り出してみました。
わかりづらいですが、ハイクラゲです。
綱 : ヒドロ虫綱
目 : 花クラゲ目
科 : エダアシクラゲ科
属 : ハイクラゲ
種 : ハイクラゲ
学名
Staurocladia acuminata (Edmondson, 1930)
傘はかなり退化したクラゲですが、水まんじゅうみたいなものも見えます。これが傘です。
傘といっても、拍動させて泳いだりはしません。
触手を使って這って歩くので1988年に、昭和天皇によって這いクラゲと名付けられました。
ヒドロ虫綱のポリプ&クラゲは神出鬼没だといいます。
江の島水族館のブログでは、
「他のクラゲや魚の水槽に突如現れます。その水槽の環境が適していれば分裂して増えますが、ハイクラゲだけ別の容器に移して増やそうと飼育してもなかなか上手くいかないことが多いです・・・」
と、あります。
実は、昨日、謎のポリプの大半はエダアシクラゲ水槽に引っ越しさせました。
ムシロガイが海藻の上にまで登ってきていたので、ポリプを食べてしまうかもしれないと思ったのです。
残っていたポリプとクラゲが付いているアオサを新しい水槽をセットして入れてみました。
クラゲを吸い取ってみようと、パスツールピペットを使いましたがとれません。
そこでアオサの先っちょを切り取ってモバイル顕微鏡で観てみました。
横から光を当てています。
触手の先が丸いのがわかります。これが吸盤でしょう。
アオサからはずれないものは、仕方がないので、アオサ越しに光をあてて撮影しました。
ハイクラゲは伸びたストロン(走根)からポリプとクラゲ芽がでて、クラゲが遊離するのですが、クラゲもまたクラゲを出すという面白いクラゲです。
上の影絵写真ではお花みたいなものが3つ見えます。これもクラゲ。クラゲからクラゲが出ているところです。
やがて遊離して独立します。
観察用にタッパに入れておいたアオサの欠片から、ハイクラゲがはずれてタッパの壁面についていたので、これを観察してみました。
円盤の辺縁部にクラゲ芽があります。さらに、そのクラゲ芽からは触手も伸びています。
はずれました!!
はずれた小さなクラゲもまた、触手で動き回り始めました。
ちょうどウニが管足を出して移動するのに雰囲気が似ています。
触手は途中で二叉に分かれています。
腹側を附属枝、背面側を刺胞枝というそうです。刺胞枝では先端(吸盤の付け根のやつかな?この吸盤みたいに見えるものも刺胞瘤の一部なのかな??)に一つ見えます。途中に三つの刺胞瘤があるらしいので、もう少し、触手にピントを合わせて撮影してみる必要があります。吸盤は正しくは付着装置というらしいです。
ところで、セットしたばかりの水槽にクモヒトデ(だと思う)の赤ちゃんサイズがいました。
水槽は不思議です。
・・・・・このあと、エダアシクラゲ水槽のポリプを再度観察しようとしたところ、赤くて厚みがある海藻(海藻図鑑で特定できず)にクラゲムシがついていました。
ムシロガイ水槽に移動。翌朝、近くに小さなクラゲムシが増えていました。
クラゲムシを含む、この日の水槽騒ぎは「机の周りのタイドプール~2019初夏~」としてまとめました。
このノートを書いたのは2019年5月22日のことですが、その後、ハイクラゲを欲しいという方が夏休みにカフェにいらっしゃいました。エダアシクラゲを研究している大学の先生で、ミウラハイクラゲと同定していただきました。
現在、日本では以下の4種類のハイクラゲが確認されています。
ハイクラゲ属(Staurocladia)
ハイクラゲ(Staurocladia acuminata)
ミウラハイクラゲ(相模湾)(Staurocladia vallentini)
ヒメハイクラゲ(小湊・房総半島および東京湾)(Staurocladia oahuensis)
チゴハイクラゲ(小湊・房総半島および呼子・九州)(Staurocladia bilateralis)
ミウラハイクラゲは1988年に相模湾で昭和天皇が発見したクラゲです。それまでハイクラゲはイザリクラゲと呼ばれていましたが昭和天皇がミウラハイクラゲ発見に合わせてハイクラゲと改名したものです。
若い方は聞きなれない言葉かもしれませんが、わたしが幼い頃には、まだ、戦争で手足を失った方が軍服を着て池袋や新宿の駅前で寄付金を集めていました。片足がなく、あるいは膝から下がなく、這うように体を引きずって歩く人達を、大人はイザリと呼んでいました。
身体に障害がある人を指す俗称はいろいろありましたが、差別用語として現在は使われなくなりました。
ハイクラゲもそんな流れを受けての改名だったのかもしれません。
昭和天皇がミウラハイクラゲを発見するよりも先に、1952年に下田の東京文理科大学附属臨海実験所の水槽内で、単一の個体から無性増殖したものがみつかりました。しかし、とにかく小さくて活発に動かないクラゲなのでその後、フィールドでみつけることができなかったのですが、2001年、ようやく最初にハイクラゲ(S. acuminata)が見つかった実験所付近の海岸で発見されました。
この種はその後も下田付近で採集される他、沖縄島からも発見されたとどこかで読んでいたので、沖縄からきたムシロガイの水槽に出現したので、ハイクラゲ(S. acuminata)かしら?と考えていました。
しかし、4種類のうち、ミウラハイクラゲ(S. vallentini)以外は2分裂で増殖するようで、クラゲがクラゲ芽を出芽して殖えるのはミウラハイクラゲ(S. vallentini)だけだと「日本動物分類学会 第38回大会 講演妙録」に書かれていたので、やはり、我が家のクラゲはミウラハイクラゲ(S. vallentini)であると確証を得ました。
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