きらら舎ではいろいろなクラゲのポリプを維持しています。
サカサクラゲやタコクラゲは何年経ってもポリプの老化は感じませんが、ミズクラゲやアカクラゲは無性生殖で殖えた個体のテロメアは再生されない、つまり老化していくようです。
そこでできる限り毎年、新しいプラヌラを入手してポリプにしています。また、ヒドロ虫綱のクラゲポリプは突然消滅することもあるので、これも機会があればポリプを作るようにしています。
今月は、成熟したエダアシクラゲを入手することができました。これについて「エダアシクラゲ受精実験2022」にまとめました。
いろいろな実験は自由研究用にも別途まとめているので、今回も自由研究用にリライトしました。
カフェでは2022年4月9日(土)15:00の回にて実験を行いました。
レポートサポートはいくつかの項目に分けているので、興味のある事項をピックアップしてみてください。
エダアシクラゲ/Cladonema pacificum
ヒドロ虫綱
花クラゲ目
★やってみよう!
エダアシクラゲはヒドロ虫綱ですが他にはどんな綱があって、どんなクラゲが属しているか調べてみよう
【エダアシクラゲの放精・放卵】
ヒドロ虫綱のクラゲは成熟していれば(卵と精子を持っていれば)明暗刺激で放精放卵させることができるものが多くます。だいたい種によって明タイプか暗タイプか決まっているのですが、エダアシクラゲには明タイプと暗タイプがあります。
今回のクラゲは先の実験で暗タイプと判明していますので、実験1時間前にオスメスを判別して1匹づつ暗箱にセットしておきます。
§1 オスメスの判別をしてみよう
色や形でわかるかな?
判別の仕方
§2 未受精卵と精子を観察しよう
卵はモバイル顕微鏡エッグで、精子はモバイル顕微鏡アナトミーで観察します。さらにユーグレナでもみてみます(ユーグレナでの観察は実験の最後)。
お持ちの方はご持参ください。当日、ご購入も可能です。
ない方には順番にお貸しします。
【エダアシクラゲの受精】
参加者一組に卵のケースを1つお渡ししますので、それに精子を入れてください(媒性)。
- アナトミーの上にケースを置き、卵にピントを合わせます
- 4倍まで拡大します
- 卵とはできるだけ離れたところに、精子の入っている容器の水をスポイトで1滴取ってそっと落とします。
- 少しすると精子がワラワラと集まってきて卵を取り囲みます。
- 受精すると、数分で精子は集まらなくなります。なぜか考えてみましょう。
- その後、通りすがりの精子がくっつくことがあります。これは受精卵が粘性のある物質で覆われているため、それにくっついているのです。
【エダアシクラゲの発生】
受精卵が細胞分裂で卵割を繰り返し、やがて受精膜をやぶってプラヌラ幼生が水中に泳ぎだすまでを発生といいます。クラゲには受精膜はないのですが、代わりに卵を包む鞘があるようです。
ワークショップ内では2細胞期まで観察できるかと思います(約40分)。
その後はできるだけ早めに帰宅して、発生の続きを観察してください。
撮影できなかった写真は請求していただければ送ります。
24℃の室内での発生のスピードの目安(温度が高いほうが速い)
40分 2細胞期
60分 4細胞期
90分 8細胞期
120分 16細胞期
150分 32細胞期
【飼育方法】
受精卵は卵割を繰り返して孵化してプラヌラ幼生となります(発生)。
この段階で海水(通常の比重)を入れた少し大き目な容器(※)に移してください。100均で売られている直径10cmくらいの容器などでOKです。
クリームケースでは発生途中で死んでしまった卵や死んだ精子が入っていて、水量も少ないので水質が悪化が始まっています。
- 海水を用意する
- 大き目の飼育容器に半分ほど海水を入れる
- クリームケースを少しぐるぐる回してから、水ごと飼育容器(※)に移す
- クリームケースにも海水を入れておく(翌日再度ぐるぐる回して飼育容器に入れてください。これによって孵化が遅かったプラヌラを救済できます)
- 飼育容器にポリプが固着できるような石やサンゴの欠片や海藻や貝殻などを入れ、海水を足して8分目とする
※飼育容器
ウニ殻にポリプが着いたら可愛いかもと、入れてみました。
でも黒いほうがポリプを観察しやすいので、溶岩も入れてみました。
あとからすごいことに気が付きました。
ウニ殻には何かつかないんです!これについてはまた他の機会に!
プラヌラは数日間、容器の中を泳ぎ回っていますが、やがて底に沈んで塊となり、変態して触手を伸ばしてポリプとなります。
海藻を入れておいたポリプ容器。すでにストロンも延び始めています。
ポリプの飼育
ポリプになったら・・・といっても見つけられないことが多いので、新しい飼育容器にクリームケースの中身を移した翌日、初期餌として渡したシオミズツボワムシを半量ほど入れておいてください(※)。
数日経過したら、ブラインシュリンプを少量与えてください。耳かき1杯程度のブラインシュリンプを孵化させて、濾し、きれいな海水に放ったものをスポイトで容器に入れます。少量でよいです。
ブラインを容器に入れてから4時間後くらいに食べ残しのブラインを除去します。
ポリプはやがてストロン(走根)という糸のようなものを伸ばし、そこからまたポリプが生えてきて無性生殖でどんどん増えます。
この時期になるとストロンが容器や基質に付着しているので水換えも楽になります。
給餌後4時間後には食べ残しをスポイトで除去し、半分くらい換水してください。
※シオミズツボワムシは変態したばかりのポリプの餌です。汽水(比重1.018)に入れてエアレーションすると培養できます。培養については「シオミズツボワムシと淡水ワムシ」をご参照ください。
クラゲがでる
ポリプの飼育温度は15~25℃。10℃をきらないようにすればずっと維持ができます。逆に冷蔵庫などに入れると、ポリプが消滅し、ストロンだけになります。
常温に戻すとポリプが出てきます。
実は自然界では冬はストロンだけになって越冬しているのです。
温かくなるとポリプではないクラゲ芽と呼ばれるものが生えてきて、拍動し始め、やがて遊離してクラゲがでます。
クラゲはポリプ容器ではなく、別の容器に移して飼育してください。海藻などのつかまれるものを入れてあげるとよいですが、なくても容器の壁面にくっついています。止水でOKですが、給餌後4時間後には食べ残しを除去し、半分換水するようにします。
クラゲの数が増えてきたら、17cm角くらいの水槽にスポンジフィルターを入れたものを用意しましょう。
一般家庭の水槽でクラゲを成熟させるのはなかなか容易ではありません。クラゲの成熟はサイズにも比例するため、水槽内では十分なサイズに成長できないためです。
しかし、エダアシクラゲは小さなクラゲなので水槽内でも成熟させることが可能です。クラゲの性は受精卵の段階で決定されます。1つのポリプから殖えた群体は同じDNAなのでオスかメスのどちらかです。ただ、今回のように複数の受精卵を容器にセットすることで、オスの群体、メスの群体の両方が存在する水槽になっています。
参考資料:出口竜作・伊藤貴洋、(2005)、「エダアシクラゲの採集とライフサイクルの制御」、宮城教育大学紀要 第40巻;pp.107-119.
【卵成熟と受精】
単細胞生物以外の生物はたくさん細胞からできています。その中で卵細胞は特に大きな細胞です。卵巣の中にある卵母細胞は、初めは非常に小さな細胞ですが、だんだんと成長して人間の場合は、普通の細胞の何100万倍という大きさの細胞になります。
やがてホルモンの刺激(高等動物では黄体化ホルモン)で放卵(排卵)が起こります。同時にジャーミナルベシクルブレイクダウン(GVBD)と呼ばれる現象が始まります。つまり減数分裂です。
減数分裂を完了したことを「卵成熟」といいます。受精が起こるとオスの半数の染色体と融合して接合核を作ります。そこから無限の細胞分裂が繰り返されていきます。
ウニはKClやアセチルコリンで放精・放卵させたものはすぐに受精するのですが、ヒトデは卵巣を取り出して1-メチルアデニンというものに浸すことで卵成熟させます。ヒトデの未成熟卵には核胞と呼ばれる丸いものが卵の中に見えていますが、1-メチルアデニンに浸しているとやがてこれが消えます。
ヒトデの受精発生実験の際に、ぜひ観察してみてください。
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