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2022年 3月27日(日)
エダアシクラゲの受精実験を行いました。
(受精卵が欲しい方、実験に立ち会い合いたい方、孵化からの飼育方法などはページ末をご参照ください)
エダアシクラゲには明タイプと暗タイプがあり、どちらかわからなかったので、まずは日の出から3時間経過したところで(※明の時間を作った)、オスメス各1匹をクリームケースに入れて暗箱に入れました。
※
実際には暗タイプは「暗」の前の「明」は数秒でも、その後の「暗」で放精放卵すると言われています。

メスだと思う

オスだと思う
暗箱っていっても、ただの空き缶です。
1時間暗くしてから明るくしようと計画して、暗箱から出したところ、すでに放卵が確認できました。ここで放精・放卵が起こらなかった場合は明タイプの可能性があり、明タイプは暗箱から出して「明」の時間で放精・放卵します。エダアシクラゲは暗タイプのほうが多いため、まず暗くする実験から行いました。
エダアシ以外のヒドロ虫綱のクラゲは種によって「明」「暗」どちらのタイプなのかは決まっています。
クラゲを水槽に戻し、ウニの卵などを観察するモバイル顕微鏡アナトミーにて撮影しました。
すでに卵割が始まっていました。
受精膜が見えないと思って調べたところ、多くのクラゲは卵膜を持たないとわかりました。つまり受精膜もないということになります。それでも最初に卵の動物極付近に付着した精子が融合に至った後に動物極付近に到達した精子は、付着できないか、付着したとしても融合には至りません。
これは卵膜に依存しない多精防止機能があるということになります。
受精卵となった卵は当たり前ですが、精子を誘引する物質を出さなくなります。これは観察しているとすぐにわかります。
また、受精卵は粘着性を持つこともわかっています。
通りすがりの精子がくっついてしまっていたり、容器の底などにくっついています。
卵割のスピードはウニより早いです。次回は計ってみます。
卵に群がる精子の数が多いのが若干気になるので、この水を別のケースに取り(卵は残したまま)、そこに、メスのクラゲを1匹入れて暗箱にセットしてみました。
実際、一番最初にセットしたこのケースでは発生途中で卵が崩壊してしまったものも多く、原因は精子が多すぎたことだと推測しています。
ここで放卵した場合、水に残っている精子だけで受精することになります。
そして、このケースも無事放卵して、受精できました。
精子については常温で(ケースに入れたまま)どのくらい生存するのか調べてみます。
受精卵は無事に発生が進めば、約1日程度でプラヌラ幼生になります。
エダアシクラゲの未受精卵の表面には微絨毛が生えています。しかし、直径10μmの無毛部分(MicroVilli Free Area)があります。精子はここから突入します。
受精卵は粘着性によってケースの底にくっついてしまうので、ウニのように受精卵をいくつかの容器に分けるのは結構大変です。
そのため、受精卵は発送直前に受精させた1個体分を送っています。

メスだと思うものをセット。放卵しました。

2 細胞期

4 細胞期

16 細胞期
3月28日(月)

胞胚期
昨日受精させた卵は、胞胚期~プラヌラになっていました。
水温が22℃だと45~60分で二細胞となり、14時間後には孵化するものも現れます。温度が高いほうが発生のスピードは速いのですが、25℃以上にならないように注意します。
胞胚を観察していると、くるくる回り始めました。隣の白っぽい輪郭は、先に孵化した胞胚のものです。受精膜はないとするなら、これはなんなのでしょう。タマクラゲやエダアシクラゲのクラゲ芽は最初は薄い鞘に入っています。それと同じようなものなのかもしれません。
プラヌラは泳ぐのが速くてなかなかきれいに撮影できません。
今日の実験は、昨日放精・放卵させた個体が連日放精放卵するか否か。
10:00
昨日放精・放卵させた同じ個体のメス3匹、オス1匹をそれぞれ別の容器に入れて暗箱にセットしました。
10:30
セットして30分。メスと思われる個体3つはまだ放卵していなかったのですぐに暗箱に戻しました。卵は肉眼で確認できますが、精子はわからないので、オスの容器をモバイル顕微鏡アナトミーで確認(精子自体をしっかり観察した場合は、倍率がもう少したかいユーグレナが適しています)。精子は確認できました。
放卵より放精が先に行われるようです。
11:00
それから30分後。放卵していました。卵の量も昨日と同じくらい確認できました。精子を卵の入っているケースに入れました。

受精
11:50 (受精から50分後 室内の気温 25℃)
早いものが 2 細胞期となりました。ただし、まだ卵割していない卵も多くあります。
12:05 (受精から65分後 室内の気温 25℃)
ケース別の時間差は5秒ほどですが、2番目のケースでは 4 細胞期のものがありました。こちらのケースではほとんど 2 細胞になっています。親が違うと個体差があるのかもしれません。
12:15 (受精から75分後 室内の気温 25℃)
8 細胞期のもの出現。卵割のスピードの個体差が大きい。
12:30 (受精から90分後 室内の気温 25℃)
16 細胞期のもの出現。卵割のスピードの個体差が大きい。
14:00 (受精から180分(3時間)後 室内の気温 25℃)
32 細胞期~桑実胚。

プラヌラ幼生

プラヌラ幼生
受精卵の販売と実験立ち合い希望について
受精卵を販売しています。
受精卵といってもタイミングによってはプラヌラになっています。
どうしても受精したてが欲しい!という方は、その旨ご連絡ください。
また、30分ほどお時間をいただきますが、ご来店いただき、実験に立ち会うこともできます。そこで放精放卵受精したものをお持ち帰りいただけます。日時は相談で日~金曜日で可能です。
(精子・未受精卵・受精したものの3ケース、お渡しします)
土曜日以外であれば、時間を合わせますが、土曜日の場合はカフェをご予約ください。
【立ち合い実験手順】
ご来店予定時刻の45分前にオスメスを別の容器に入れたものを4ケースセットしておきます(一番最初は精子が多すぎたので発生が正常に進まなかったものも多くあったため、ウニと同様、オスメス別に放精・放卵させたものを受精させるようにしました)。
ご来店時に放精・放卵を確認します。ここで未受精卵を隔離したケース、未受精卵に精子のケースの水を少量いれて媒性したものと、精子ケースをお持ち帰りいただきます。
精子は少量しか入れませんので、万が一、ご帰宅後、受精していない卵が多かった場合は精子水を追加で少量入れてみてください。
受精させたものを渡すのは、精子の活性が時間経過とともに落ちるため、放精・放卵直後に受精させます。別々に持って帰ったものは、顕微鏡などを用意して受精から観察してください。
飼育方法はこのページ末をご参照ください。
【きらら舎の受精卵採取作業の見学】
エダアシクラゲのシーズンはあまり長くありません。
現在、成熟個体が多くいますが、この時期にできるだけ受精卵を取ります。
もちろん、水槽内では毎日放精放卵が行われていて、どこかにポリプが付いているはずですが、水槽を洗った時にポリプもなくなってしまうということも多く発生します。
そこで、別にポリプ水槽(水槽といっても直径10cm程度の容器※です)を作ることで、ポリプを確保することができるのです。
この作業の見学もできるようにしました。ツイッターで日時を告知しますので、その時間にカフェにお越しください。見学は無料です。未受精卵、精子の観察、受精について、説明しながらお見せします。撮影もOKです。
そこで受精させた受精卵を持ち帰りたい場合は、予め、受精卵をカートからご注文ください(¥1100)。受精卵とポリプになった初期の餌をお渡しします。
【飼育方法】
受精卵は卵割を繰り返して孵化してプラヌラ幼生となります(発生)。
この段階で海水(通常の比重)を入れた少し大き目な容器(※)に移してください。100均で売られている直径10cmくらいの容器などでOKです。
クリームケースでは発生途中で死んでしまった卵や死んだ精子が入っていて、水量も少ないので水質が悪化が始まっています。
- 海水を用意する
- 大き目の飼育容器に半分ほど海水を入れる
- クリームケースを少しぐるぐる回してから、水ごと飼育容器(※)に移す
- クリームケースにも海水を入れておく(翌日再度ぐるぐる回して飼育容器に入れてください。これによって孵化が遅かったプラヌラを救済できます)
- 飼育容器にポリプが固着できるような石やサンゴの欠片や海藻や貝殻などを入れ、海水を足して8分目とする
※飼育容器
ウニ殻にポリプが着いたら可愛いかもと、入れてみました。
でも黒いほうがポリプを観察しやすいので、溶岩も入れてみました。
プラヌラは数日間、容器の中を泳ぎ回っていますが、やがて底に沈んで塊となり、変態して触手を伸ばしてポリプとなります。
ウニに比べて発生の途中で崩壊する卵も多いのですが、逆に崩れているように見えるものも、数日内に持ち直してプラヌラになることもあります。また、形が崩れたように見えるプラヌラもちゃんと泳いでいて、翌日くらいにはきれいな形に戻っていたりもします。
早めに捨ててしまわないようにしてください。
海藻を入れておいたポリプ容器。すでにストロンも延び始めています。
ポリプの飼育
ポリプになったら・・・といっても見つけられないことが多いので、新しい飼育容器にクリームケースの中身を移した翌日、初期餌として渡したシオミズツボワムシを半量ほど入れておいてください(※)。
数日経過したら、ブラインシュリンプを少量与えてください。耳かき1杯程度のブラインシュリンプを孵化させて、濾し、きれいな海水に放ったものをスポイトで容器に入れます。少量でよいです。
ブラインを容器に入れてから4時間後くらいに食べ残しのブラインを除去します。
ポリプはやがてストロン(走根)という糸のようなものを伸ばし、そこからまたポリプが生えてきて無性生殖でどんどん増えます。
この時期になるとストロンが容器や基質に付着しているので水換えも楽になります。
給餌後4時間後には食べ残しをスポイトで除去し、半分くらい換水してください。
※シオミズツボワムシは変態したばかりのポリプの餌です。汽水(比重1.018)に入れてエアレーションすると培養できます。培養については「シオミズツボワムシと淡水ワムシ」をご参照ください。
クラゲがでる
ポリプの飼育温度は15~25℃。10℃をきらないようにすればずっと維持ができます。逆に冷蔵庫などに入れると、ポリプが消滅し、ストロンだけになります。
常温に戻すとポリプが出てきます。
実は自然界では冬はストロンだけになって越冬しているのです。
温かくなるとポリプではないクラゲ芽と呼ばれるものが生えてきて、拍動し始め、やがて遊離してクラゲがでます。
クラゲはポリプ容器ではなく、別の容器に移して飼育してください。海藻などのつかまれるものを入れてあげるとよいですが、なくても容器の壁面にくっついています。止水でOKですが、給餌後4時間後には食べ残しを除去し、半分換水するようにします。
クラゲの数が増えてきたら、17cm角くらいの水槽にスポンジフィルターを入れたものを用意しましょう。
一般家庭の水槽でクラゲを成熟させるのはなかなか容易ではありません。クラゲの成熟はサイズにも比例するため、水槽内では十分なサイズに成長できないためです。
しかし、エダアシクラゲは小さなクラゲなので水槽内でも成熟させることが可能です。クラゲの性は受精卵の段階で決定されます。1つのポリプから殖えた群体は同じDNAなのでオスかメスのどちらかです。ただ、今回のように複数の受精卵を容器にセットすることで、オスの群体、メスの群体の両方が存在する水槽になっています。
ちょっとマニアックなおまけ
【卵成熟と受精】
単細胞生物以外の生物はたくさん細胞からできています。その中で卵細胞は特に大きな細胞です。卵巣の中にある卵母細胞は、初めは非常に小さな細胞ですが、だんだんと成長して人間の場合は、普通の細胞の何100万倍という大きさの細胞になります。
やがてホルモンの刺激(高等動物では黄体化ホルモン)で放卵(排卵)が起こります。同時にジャーミナルベシクルブレイクダウン(GVBD)と呼ばれる現象が始まります。つまり減数分裂です。
母親からきた染色体と父親からきた染色体が対になり、2組みの染色体に分かれ、一方の染色体は第一極体として放出されて退化します。残った半分の染色体が卵の中に残ります。そしてさらに次の減数分裂が進むと、これのまた半分が第二極体として放出され、半数体の核になります。
減数分裂を完了したことを「卵成熟」といいます。受精が起こるとオスの半数の染色体と融合して接合核を作ります。そこから無限の細胞分裂が繰り返されていきます。
ウニはKClやアセチルコリンで放精・放卵させたものはすぐに受精するのですが、ヒトデは卵巣を取り出して1-メチルアデニンというものに浸すことで卵成熟させます。ヒトデの未成熟卵には核胞と呼ばれる丸いものが卵の中に見えていますが、1-メチルアデニンに浸しているとやがてこれが消えます。
ヒトデの受精発生実験の際に、ぜひ観察してみてください。
また放出された2つの極体は受精の際にも卵の近くで見ることができます。タマクラゲだとこの極体のあるところからくびれて卵割します。
参考資料:出口竜作・伊藤貴洋、(2005)、「エダアシクラゲの採集とライフサイクルの制御」、宮城教育大学紀要 第40巻;pp.107-119.
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