ミズクラゲ倶楽部 2023
きらら舎では「きらら舎生物部(※)」として、いろいろな生き物を飼育観察撮影しています。ほとんどはペットショップやホームセンターでは売っていない生き物です。
※ 部活動としてはサブスクで届く生体の販売・譲渡、カフェSCHOLEでの生物の実験や観察など。どなたでも参加できます。
活動のベースはFaceBookグループページです。
その一つにクラゲがいます。
・サカサクラゲ
・タコクラゲ
・アカクラゲ
・ミズクラゲ
この4つはポリプで維持することが簡単なので、通常はポリプを飼育していてクラゲが出たらそれを育てるということをしています。
このほかには、エダアシクラゲ、タマクラゲ、カギノテクラゲをその季節に採集して飼育し、受精実験などを行っています。ベニクラゲも時々入手でき、ポリプもできるのですが、それを長く維持できずにいます。
エダアシクラゲも水槽にポリプがあって、時々クラゲが出ているのですが、意識してポリプを隔離し、飼育しようとするとうまくいきません。
ハイクラゲも水槽にいます。意識して飼育しているものではなく、そのほうが長く維持できます。
ヒドロ虫綱のクラゲはそんなふうなのですが、ミズクラゲは特別に毎年「ミズクラゲ倶楽部」として行っていることがあります。
ミズクラゲの生活史や詳細は以下の昨年のページをご参照ください。
>>ミズクラゲ倶楽部 2022
一般的なミズクラゲは、有性生殖でできた受精卵が孵化して、プラヌラと呼ばれる幼生になります。

プラヌラ幼生
そして、それが海中に泳ぎだして、どこかに固着してポリプに変態します。
ポリプは水温が低くなると、伸びてくびれができ、赤くなり(ストロビレーション)、やがてくびれの一つ一つがエフィラと呼ばれる幼生となって遊離していきます。
しかし、きらら舎で年に2度ほど仕入れている場所で採集されるプラヌラはショートカットするのです。専門的には「直達発生」といいます。
ことしは福井からまず先に届きました。福井の浦底湾で採集されるミズクラゲのプラヌラはポリプにならずに直にエフィラを1つだけ出す(ショートカットする)ことが知られています。
もう少し後には、京都からも届きます。
浦底湾は若狭湾に続いています。若狭湾は舞鶴湾にも続き、ここのミズクラゲもまたショートカットします。
昨年、クラゲのシンポジウムがありました。
それまでは、ショートカットする個体の割合はプラヌラのサイズに比例する(Yasuda 1988)という研究発表がされていました。
昨年のシンポジウムでは
「直達発生型ミズクラゲAurelia coerulea の環境適応と生活史戦略」というテーマでの発表(高内さつきさん/株式会社テクノプロ テクノプロR&D 社)と、
「舞鶴湾におけるミズクラゲの季節的な生活史二型とその適応的意義」というテーマでの発表(鈴木健太郎さん/電力中央研究所 サステナブルシステム研究本部)が、
毎年、ミズクラゲ倶楽部として行っているプラヌラ観察&飼育に関するものとしてありました。
高内さんの発表では
大型プラヌラ形成による直達発生は低水温環境に特化した形質であり、餌の少ない低水温期に、1 個体のプラヌラが、餌を求めて浮遊できるエフィラと無性生殖により増殖できるポリプの両方を形成し、適応度を上げる特殊な生活史であると考えられた。
ということでした。
鈴木さんの発表では、さらに、
水温20℃を境に生活史二型が切り替わっていた。以上より舞鶴湾ではミズクラゲ一種が水温の刺激を受けて季節的に生活史戦略を切り替えていること、直達発生型の再生産の主な担い手は越冬メデューサであることが示唆された。
お二人とも、もちろん、これ以外のことについても発表されましたが、きらら舎のミズクラゲ倶楽部の2023年の実験は、上記2つのことをうけて、温度による誘導をしてみたいと思います。
先に届く予定の福井産は、この時期(3月中旬)なので越冬個体であると考えらます。採集できた親クラゲのサイズにもよりますが、水温を20℃以下に保てば100%近くがショートカットすると考えらます。
そこで半分を20℃以下、半分を22~25℃くらいの水温で飼育してみます。
参加受付・・・変態始まったので終了しました
実験結果
到着当時は最高に多忙だったので、到着後、とりあえず容器に分けてカフェにて保管(室温なので15~20℃)。
その後、多忙の合間を見て観察してみたところ、すでに底面に固着が始まっていました。忙しかったので撮影はできていませんが、エフィラになるだろうという変化が始まっているものも多くいました。
昨日、3/15早朝より、カフェにダンゴムシエリアを設置し、保温シートの片隅にミズクラゲの容器を半分かかるくらいに乗せておきました。
その結果の水温は24℃です。深夜~未明には室温が下がるのでもう1~2℃低いかもしれません。
保温セット24時間で9割ほどがポリプとなりました。室温の容器は9割ほどがエフィラに変化しているので、温度操作で直達発生型のプラヌラでもポリプになるという先のシンポジウムの発表が裏付けされたと考えてよいと思います。
今回、到着したプラヌラは東京湾産や遅い時期(4月下旬)の舞鶴湾の直達発生型のプラヌラよりも大きく(忙しくて計る余裕がありませんでしたが、次回からは計ってみます)、だからこそ、直にエフィラを出し、その後ポリプになれるのだと考えられます。これがそのままポリプになったものは、とても立派です(後日写真をアップします)。